2012.03.17 (Sat)

第十一話『蒼穹』

今日はストライクウィッチーズ 劇場版の公開日ですね!
予定が込み混みなので行けるかどうかわからないのですが、早く見たくて仕方がないです。
劇場版公開前に自分の中の「ストライクウィッチーズにもし3期があったら」なSSをどうしても更新したかった、ので、更新します(笑)。

一話から十話まではこちら。

第1話 三度、空へ 前編
第2話 三度、空へ 後編
第3話 兆
第4話 お願いだから
第5話 継がれる想い
第6話 塔
第7話 譲れないもの、守りたいもの
第8話 sing a song
第9話 Christmas
第10話 手からこぼれおちるもの

これが本編としては最後の話になります。
【More・・・】



第十一話 蒼穹 

―ここはどこだ―

真っ暗闇の中にバルクホルンは立っていた。
暗い、どこまでも暗い空間に、バルクホルンはあの夜を思い出していた。煌々と炎を纏う街に、黒いネウロイが攻撃し、何もかもを失ったように感じたあの夜を。

―いやだ―

叫びたい。
なのに、声も出せず、そのままうずくまった。断末魔が聞こえそうな気がして耳をふさぐ。

―ごめんなさい。ごめんなさい。守れなくて、ごめんなさい―

あの日失わせてしまった命に詫びる。詫び続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。

「何してるの?」

誰もいないはずの空間に突如声が聞こえた。
その声は聞き覚えがありすぎるやつの声にも聞こえたし、そうでないかもしれない。言葉を続ける。

―謝っているんだ―
「だれに?」
―守れなかった人たちに―
「ふぅん、そうしてうずくまってるだけで、その人たちが許してくれるとは思わないけどな」

突き放すような声音、そして揺るぎようもない真実にずきん、胸が痛んだ。

「そんなことよりもやらなきゃいけないことがあるんじゃないの? 君にしか、できないことが」

その言葉にバルクホルンは弾かれるように顔を上げた。

―待って、待ってよ―

声が出ない。でも必死に声のする方へ行くと光がバルクホルンを包み込んだ。


***


「バル……ンさん!」

―……声がする。

「……クホルン!」

―聞いたことがある声だ。

「……トゥルーデ!」

その声に、意識が完全に光の方へ向かった。視界には白い天井。自分が横になっているのだと分かる。天井からゆるりと視線を巡らせ、横を見てみれば
「ハル、トマン?」
一番に見えたのはハルトマンの顔だった。次第にしっかりしてきた視界に捉えられたのは第501統合戦闘航空団のほぼ全員だった。
全員がほっとしたような表情で自分のことを見ている。体が鉛のように重くて上手く身動きが取れない。怖い夢を見ていた気がする。ふっと頬が濡れている感覚に自分が泣いていた事を知る。夢の内容は覚えていない。

「ここ、は?」

かろうじて呟くと、ミーナが応じてくれた。

「トゥルーデ、あなた、ネウロイの熱線を受けて堕ちたのよ」
「……やっぱりか」

ミーナの言葉に徐々に思い出す。目の前まで迫った熱線。もうだめだと思っていたくらいだった。

「よかった、バルクホルンさん、目を覚まして」

と言う宮藤の声にそちらを見れば、憔悴しきった様子の宮藤がリーネに支えられて立っていた。すぐにわかる。自分の怪我の治療のために魔法力をフルに使っていてくれたのだと。宮藤とはそういうやつだった。

「宮藤……すまない、苦労をかけたみたいで」

宮藤はふるふると首を振った。

「バルクホルン大尉……」

そう言って顔を覗いてくるのはヘルマだ。瞳いっぱいに涙を溜めて、こちらを見ている。

「ヘルマ」
「バルクホルン大尉……っ! わた、わたし……バルクホルン大尉が死んじゃうんじゃないかって……」

そのまま、瞳からぽろりとこぼした涙が一筋流れ出すと堰を切ったようにあふれ出してきた。

「ヘルマ……」

バルクホルンは半身を起こして涙をぬぐってやった。体を起こした際に脇腹に激痛が走った。
顔をしかめる。その様子にミーナが顔をしかめた。

「あなたは安静にしていて。場所を移すわ。全員、ミーティングルームに集合して」
「待ってくれ」

バルクホルンはすがるようにミーナを見上げる。

「ここで、聞かせてくれ」

これからの決戦に関する作戦を話すなら聞かずにはいられなかった。

「トゥルーデ」

たしなめるようなミーナの声。それでも、と目で訴える。

「いいんじゃない、ミーナ」

ハルトマンが仲介に入る。ミーティングルームに行っても、怪我を押して来そうだよこの様子じゃ、なんて言われてミーナははぁ、とため息をついた。

「バルクホルン大尉を襲った熱線はネウロイの巣から放たれたものよ」

ネウロイの巣から放たれたものだというのはバルクホルンも霞みゆく視界の中で確認したことだった。

「ネウロイの巣は、生みだしたネウロイを使役して攻撃してくるのが普通の筈だ。攻撃を仕掛けてきたなんて報告は今まで聞いたことがないな」

とは、坂本の言。こくり、とミーナが頷いた。

「熱線を合図とするかのようにネウロイの巣は活発な活動を開始したわ」
「……具体的に言うと?」

バルクホルンが口を挟む。

「ネウロイの排出よ。今まで以上のペースでネウロイが吐き出されつつあるわ」
「……」

膠着していた戦線だ。ネウロイの勢力が増したとあれば再び人類が押されてしまうのも時間の問題と言うわけだった。早急に手を打つ必要があるだろう。

「本部はネウロイの巣が更に活動をする前に撃って出ることに決めたわ」
「開始時間は?」
「明日の○五○○時……ちょうど九時間後ね」
「……作戦は?」

じり、と、全員の視線がミーナに集中する。

「最新型の特殊潜水艦を使うわ。ステルス仕様の潜水艦でネウロイの巣の直下まで行って、コアを攻撃する」
「誰がやるんだ」
「……私だよ」

ハルトマンが手を挙げた。
既に作戦のことを知っていたらしい。指名も受けたそうだ。既に一度、潜水艦からの奇襲を行っているし、ハルトマンは適任だと言うことだろう。

「潜水艦の乗員数は」
「トゥルーデ、あなた、まさか」
「私も乗る」
「だめよ! その体で何ができるというの」
「……」

ミーナが激するのに対し、ハルトマンはあくまでも冷静だった。

「死にに行くわけじゃないよね?」
「絶対に生きて帰ってくる。私はそう、クリスと約束した。大丈夫、生きて帰ってくるさ。それに、ほら」

ぽう、と魔力を解放して耳としっぽを具現化する。

「魔法力がどんどんとあふれてくるみたいなんだ」

そう、腹の底からかっかと燃えるものがある。魔力減退なんてうそだったように、魔力があふれているのだ。

「死の淵に立たされると魔法力が強化されると聞いたことがある。それか」

坂本がバルクホルンの様子をまじまじと見て言った。

「……考えさせて」

ミーナは力なく言った。今のバルクホルンには何を言っても聞かない。それを知っているのだ。

「解散とします。明日に備えて各自、よく睡眠を取るように」

その言葉にそれぞれが思い思いに救護室を去っていく。

「トゥルーデ」

ハルトマンが去り際にバルクホルンに声をかけた。

「なんだ」
「トゥルーデがそうと決めたのなら、私は止めないよ」
「……ハルトマン」

意外だった。ハルトマンは絶対に何が何でも止めてくると思ったのに。

「トゥルーデが危なくなったら私が助けるから……今度こそ」

空の上でしか見られないハルトマンのきりっとした顔が一瞬覗く。けれど、すぐにそれは引っ込んだ。

「じゃぁ、またあとで。宮藤も話があるみたいだよ。もーおねえちゃんもってもて!」
「もってもてってなんだ、ハルトマン! こら、待て……いてて」

叫んだらきりりとわき腹が痛んだ。ハルトマンと入れ替わるようにして宮藤がリーネに連れられて枕元までくる。

「バルクホルンさん」
「宮藤……何度でも言わせてくれ、ありがとう。お前には二度も命を助けてもらってしまったな」
「……いいんです。それよりも、バルクホルンさん。本当に出撃するんですか」
「……ああ」
「正直、止めたい気持ちでいっぱいです。傷口は治したけれど、失われた血や体力が戻ってきたわけではないのですから」
「……」

文字通りのドクターストップ。でもそれは、重々承知の上だ。

「ミーナ中佐でさえ、折れてしまうほどなんですから、私ではバルクホルンさんを止めることなんてできないと思います。だから」

宮藤は言葉を切った。

「だから、バルクホルンさんが無事に帰ってこられるように、少しでもわたしにできることをさせてください」

宮藤はそういうとベッドの脇に膝をついた。
そっと布団とバルクホルンの病人服の端をめくり、腹に巻かれた包帯をあらわにする。
すぅ、深呼吸をして宮藤が集中し、治癒魔法を行使し始めた。
リーネは宮藤の額に浮かぶ汗をそっとぬぐいながら、寄り添っていた。


***


誰もいなくなった救護室でバルクホルンはうまく眠れずにいた。
そっとベッドを抜け出す。立ち上がると、わき腹にそこまでの衝撃はない。宮藤ががんばってくれたおかげだ。宮藤自身はぐったりとしていたので途中で治療を止めさせた。「医者を志すものとしてほうっては置けない」と言う宮藤を「明日の作戦に支障が出たらどうする」とバルクホルンは軍人然として封じた。
カーテンの間からこぼれてくる月明かりが綺麗だ。
そっと窓に歩み寄る。

明日は、決戦だ。

自分の故郷を取り戻せるかもしれない、そんな私情を多く含んでいる決戦だ。
ついにここまで来たんだ。
手のひらを握り締める。
この魔法力の復活が一時的なものだったとしても、それでも、カールスラントを、故郷を取り戻すことができるこの日をどれだけ待っていたことか。
こんこん、と扉がノックされる。
時計を見てみると時間はちょうど日が替わる頃だ。こんな時間に誰だろうか。

「どうぞ」

扉の外に入室を促すと、一瞬ためらった後、扉を開けて入ってきた。

「よう、バルクホルン。まだ起きていたんだな」
「ああ、眠れなくてな」

さっき、救護室では見なかった顔……シャーリーがぎこちなく挨拶をする。眠っているかもしれないと思いながら部屋をノックしたなんて変なやつだ。

「お前は休まなくていいのか?」
「私も眠れなくてさ」
「そうか」

どうだ、一杯。そう言ってシャーリーが差し出してきたのはホットミルクだった。ありがとう、そう言ってバルクホルンはそれを受け取る。
シャーリーはバルクホルンの横に並ぶとそっと窓の外を眺めた。
そこから何を話すのでもない沈黙が訪れる。静かな夜だ。決戦が明日だなんて嘘みたいだけれど、基地内に立ち込めるのは「やるぞ、頑張るぞ」という静かな闘志。個人差はあれど、明日に向かう気持ちは一緒で、今夜の空気を感じるたびにバルクホルンはこの501に配属されて本当に良かったとかみ締めた。ホットミルクをそっと口に運ぶ。熱すぎもせず、冷たすぎもしない。ほっと心が落ち着く。
そっと右隣を見れば、ずっと考え込んだ顔でホットミルクの水面を見つめているシャーリー。何か言いたいことがあってきたのではないだろうか。そう思うけれど、シャーリーが言う準備が整うまでは何も言うまい。そうも思ってバルクホルンはそのまま窓の外を見ていた。

「ごめん」

急な謝罪。バルクホルンは面食らった。

「どうしたんだ」
「守れなくて、ごめん。『もしものときは頼む』って言ってくれたのに。私は何もできなかった」

シャーリーは俯く。この怪我をしたときのことを言っているらしい。そんなの。誰も予想できなかったじゃないか、あそこでネウロイの巣が攻撃してくるなんて。それに。

「あれは私の不注意だ。ネウロイの巣が目の前にあるというのに気を抜いていた、私の」
「……」

シャーリーは思いつめた顔をしている。珍しい。いつもこいつはこちらがいらいらするくらい余裕に満ちているというのに。
思えば、シャーリーは大人びてはいても、バルクホルンより年下なのだ。そんな当たり前のことを今更にして思う。ここでお前に守ってもらうほど私は弱くない、なんて言葉はシャーリーを傷つけるだけだ。今の決戦前の柔らかな空気を壊したくなかった。

「なら」

バルクホルンは一呼吸置く。

「次、頼む」
「……っ」

シャーリーは俯いて、再び顔を上げた。

「わかった」

まだ硬かった表情は一口、ホットミルクを口に運んで柔らかいものへと変わる。茶化すようなそれに。

「でも、あんたもうすでに無茶をするって決めちゃっているからなぁ」
「うぐ」

潜水艦に乗ると決めたことはあの場にいなかったシャーリーの耳にも届いたようだ。バルクホルン自身もかなりの無茶だと心得ているからだ。
しかし、心得ている上で、やる、と決めた。決めてしまった。曲げることは、ない。

「いいよ、あんたはこうと決めたら曲げないって知ってるから」

返す言葉もない。

「だから、今度こそ。あんたがまっすぐに飛べるように道を作るさ」

シャーリーはくるり、と踵を返した。部屋を出るらしい。

「……任せた」

その背中にぽつりと呟くと、シャーリーは振り返らずに右手を挙げた。任せろ、と、その背中が語っていた。

再び一人きりになった部屋の中で仲間のことを思う。
エイラあたりはサーニャと微笑み合っているだろう。
宮藤とリーネとペリーヌとヘルマは四人揃ってベッドで寝ていたりしてな。ルッキーニまで来たものだからベッドが狭くて敵いませんわなんて言って抜け出そうとしたペリーヌが逃げ切れずにまたベッドに引きずり込まれたりしていそうだ。
ミーナは少佐と一緒だろうか。司令官として、この戦いを振り返っているに違いない。
ハルトマンは……ハルトマンもあの部屋で一人、空を見上げているような、そんな気がした。


***


翌朝。○五○○時。バルクホルンとハルトマン以外のメンバーが、本部の準備した航空母艦に乗り込む。その脇をティルピッツのようなカールスラントの空母だけでなく、ブリタニアやガリア、ロマーニャ、扶桑の軍艦も並び、その眺めはオペレーション・マルスを思い出させる壮観さだった。
バルクホルンとハルトマンが乗り込んだのはイ十三。特殊加工によりステルス仕様となっている潜水艦だ。しかし「なっているはずだ」という表現が正しいと思われるほど、実地での試運転なしのぶっつけ本番だった。
隊列を組んで、全軍がカイザーベルクに向かって湾を進む。イ十三に乗艦している二人は作戦開始の言葉を聞くまでは待機で何もすることがない。けれど、艦は進む。進めるようにフォローするのが残りのメンバーの役割だった。
湾の中に入ると大きく陣取ったネウロイの巣がより大きく見える。航空母艦からの出撃を前にして、ヘルマはごくり、とつばを飲み込んだ。
今まで、こんな大きな戦いには参加したことがない。若輩である自分が足を引っ張らないだろうか、その不安もある、けれど、バルクホルンの気持ちを想い弱音を吐くことだけはしない。

「出撃!」

ミーナの声にそこにいた全員が出撃する。
主力であるバルクホルンとハルトマンを欠いているが、シャーリーの顔は余裕に満ち溢れていて、それにつられるようにして他のメンバーも笑っていた。
航空母艦から飛び出した面々はネウロイの巣の付近にいるネウロイの多さにあきれ返った。
ひゅう、なんて吹けもしない口笛を吹いたのはルッキーニだ。シャーリーの真似らしい。

「いっくぞー!」

シャーリーの掛け声に全員が攻撃態勢に移った。



「なぁ、ハルトマン」
「なぁに?」

すぐにでも出撃できるようにストライカーユニットを装着し、臨戦態勢で二人は待機していた。

「ありがとう」
「ぶっ……藪から棒に、何さ」
「いや、お前がいてくれたからここでこうしていられるんだなってふと思ってな」
「やだなぁ、改まって」

カールスラントが陥落したとき。お前がそばにいてくれた。ミーナも私も立ち上がれなくてうずくまっているときもこっちだよ、と導いてくれた。
501に宮藤が来たとき。クリスを思い出してどうしようもない私をそっと見守っていてくれた。
今回だって。今回だって、お前が私の背中を押してくれなかったらクリスに会う勇気もなかっただろう、こうしてカールスラント戦線の最終決戦に臨むこともできなかっただろう。
お前には助けられてばっかりだ。
私は何かお前に返してあげられたのかな。
そんな不安に襲われてしまうほどに。もらってばかりの私だ。だから、せめて、お礼を言わせてほしいんだ、ありがとうって。

「そういうのは戦いが終わってからにしてよね」

祝い酒でも飲んでさ。みんなでお疲れ様ってパーティーをするんだ。
こんな決戦前でもそんなことを言っているハルトマンが頼もしい。バルクホルンはふっと微笑むと、合図を待つ心を引き締めた。

ティルピッツをはじめ、いくつかの艦は足止めを食らっているが、501だけは違った。
ネウロイを押しに押し、間もなくネウロイの巣、というところまでたどり着いている。
作戦の最終段階に移るとバルクホルンたちがネウロイの巣の直下から出てくるわけだが、できる限り、ネウロイは減らさないと二人がネウロイの只中に飛び込んでいくことになってしまう。できるだけ、ネウロイを倒さなければならないのだ。

「ルッキーニ、来い!」
「お? やるの? やっちゃうの?」

ルッキーニが意気揚々とシャーリーの元に飛んでくる。そして手を握り合うと、魔力を同調させる。

「いっけー! ルッキーニ!」
「うっじゅー!」

加速を加え、シャーリーはルッキーニをネウロイの一段に向かって分投げた。
ルッキーニが飛んで抜けていく一拍後にネウロイが次々と爆発していく。

「私たちも負けていられませんわ」

ペリーヌも思い切りトネールを放ち、ヘルマがそれをジェットストライカーで避けながら隙を突くようにして攻撃を加える。
宮藤とリーネ組はリーネが集中して狙撃できるようにリーネを守るようにして宮藤がシールドを張っていた。
時折接近してきたネウロイは宮藤が背にしている扶桑刀で切り伏せた。
エイラとサーニャもエイラの的確な指示にサーニャがうまくあわせている。



じり、じり。
最初は拮抗していた力が徐々に501の攻勢へと動き始めた。
ミーナはさっと時計に目を走らせる。
……ここが、分岐点だ。
正直、まだネウロイの数は多い。二人に行動開始を命じるには危険だった。
だけど、ネウロイはどんどん出てくるのに対し、ウィッチたちは消耗していく一方だ。
ここで行動を開始するか、様子を見るか。
ミーナはふと、微笑んだ。
あの二人の実力は私が一番良く知っている。ずっとずっと一緒に戦ってきたのだ。大丈夫、二人なら。隣に在れない悔しさを押し隠して、ミーナは笑ったのだ。

「大丈夫か」

急に笑ったミーナに坂本は不思議そうな顔をした。

「あなたの性格が移ったのかもしれないわ」
「……? 私はこんな局面では笑わないぞ?」

気にしたら負けよ。そう返すと、ミーナは全員のインカムに届くように指令のためのスイッチを入れる。

「作戦の第二段階に移るわ! バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、おねがい!」
「「了解!」」

ネウロイの直下に来ていたイ十三が浮上する。その水柱の中からバルクホルンとハルトマンが飛び出した。
背中合わせに、ぐるぐると回りながら、的確な弾筋でネウロイを捕らえながら、二人が急上昇をしていく。

「みんな、二人を援護しろ!」

坂本の檄が飛び、二人の周りに近づけるものかと全員が奮闘する。

「頑張って、ハルトマンさん!」

宮藤が、

「頑張れよ、バルクホルン!」

シャーリーが、

「頑張って、二人とも!」

ミーナが、みんなが、叫ぶ。


「「おおおおお!」」


叫びが合わさる。バルクホルンとハルトマンの咆哮だ。
ばばばばと、ネウロイが次々に破壊されていく。粉砕されたネウロイのかけらが二人が進んだ道をあらわす。
その軌道は、ネウロイの巣の、コアに向かって一直線だ。
まっすぐ、まっすぐ、進んだその軌道は、やがて。

「コアについた!」
「……トゥルーデ!」

赤い熱線が近付いてきたが、バルクホルンは立ち止まらない。パン、と赤い光が飛散する。

「ハルトマン! バルクホルン!」

シャーリーが叫ぶ。まさか、やられてしまったのか?
煙が晴れていく。
そこには、ハルトマンの張るシールドがあった。

「同じ手を食らうとでも思ったか?」
「甘く見られたもんだよね」

そんな軽口を叩きあいながら、二人は更に上昇する。そして。


「「おっちろーーー!」」


二人の掛け声と共に、MG42の三丁分の弾がコアに叩き込まれる。

がしゃん!

ガラスを砕いたような音。同時に再び立ち上る煙。
どうなったのか、状況が分からない。けれど、次の瞬間見えたのは……重力に任せるように堕ちていくバルクホルンの姿だった。

「バルクホルン……っ?」

シャーリーは加速して堕ちゆくバルクホルンの体を受け止めた。

「バルクホルン! バルクホルン、しっかりしろよ!」
「だい、じょうぶだ」

外傷はどこにもない。とりあえずは安心したものの、今度はハルトマンのことが心配になる。

「ハルトマンは……ハルトマンはどこだ」

きょろきょろとあたりを見回す。ハルトマン。どこへ。まさか。
シャーリーの焦りが分かったのだろう、バルクホルンはふっと微笑んだ。

「大丈夫だ、あいつなら」

まだコアの付近を取り巻いていた煙がようやく晴れる。煙だけではない、ネウロイの巣を攻勢していた雲のようなものまでもが消えていく。晴れ間が覗く。
その太陽の光に一際輝く金色があった。

「ハルトマンさん!」

宮藤が叫ぶ。ハルトマンは宮藤の声に振り向いた。
何も言わず、Vサインをしている。ということは。

「私たちの、勝ちだ」

バルクホルンがシャーリーの腕の中で笑った。


***


ハルトマンがシャーリーの下へ降りてくる。心配そうに、バルクホルンのことを覗き込んだ。
ハルトマンにはすぐにバルクホルンの状況が分かった。魔法力が、今まさに消えようとしているのだ。
その証拠に使い魔の耳と尻尾は太陽に照らされて更にすう、と透けて見えていた。

「トゥルーデ」
「……分かっている。大丈夫だ。これだけの大きな戦いだ。ここがウィッチとしての最後の戦場だという覚悟はできていたさ」

死地をさまよったことで手に入れた魔力増強も、一時的なものでしかない。……それも、覚悟していたことだった。

「……」

シャーリーは何も言わない。

「二人とも、ありがとう。私は、私のこの手で、故郷を救うことができた。こんなに嬉しいことはない」
「……」

二人が何も言わないものだから、バルクホルンはうろたえたように言葉を続ける。

「まだ、少しだけ魔法力が残っているうちに、まだまだ戦ったり、次世代を担う人材を育てたい、そんなことまで思えているから」

バルクホルンはヘルマのいるほうへ視線をやった。

「だから、大丈夫だ」

無理をしている。それは分かった。最初は故郷を助けたい、解放したい、そんな気持ちだっただろう。そのためなら自分の体はどうなってもかまわない、そんな気持ちの時だってあっただろう。でも、今は違うはずだ。空を飛ぶことが好きで好きで。それはどのウィッチだって同じはずだった。
二人は、いや、ここにいる者はウィッチだ。空を飛べなくなるつらさを知っているものばかりだった。

「無理、するなよ」

シャーリーが言う。

「無理など」

バルクホルンが反論してシャーリーの腕の中から飛び出そうとするけれど、それは叶わない。

「ねえ、トゥルーデ」

真面目な顔に、バルクホルンも顔を引き締める。


「                」


ハルトマンはバルクホルンの耳に唇を寄せ、何かを呟いた。
バルクホルンはくしゃり、と顔をゆがめた。

「お前……」

そこから先は言葉が続かないようだった。泣いて、泣いて、それでも無理に笑おうとした。

嬉しくて、嬉しくて、嬉しいはずなのに、涙が出てしまうんだ。
何でだろうな。
最近、私はすごく泣き虫だ。
しかも、悲しいことじゃなくて、嬉しいことで泣いてしまっているんだ。
それって、なんだか、幸せなことだよな。

始まりがあって、終わりがあって。終わりがあるから始まりがある。だから人は歩いていけるのだと思う。
早朝に始まった戦いだったが、朝日は既に十分になってきた。
東方の眼下には故郷が見える。雪に覆われた白い故郷は太陽に照らされて輝いて見えた。
そっと手のひらを風にそっと差し出してみる。
心地よくすり抜けていくそれをそっと握ってみる。
春は、もうすぐだった。


(to be continued…)



最後までお付き合い頂きありがとうございました。
トゥルーデの「始まりがあって、終わりがあって。終わりがあるから始まりがある。だから人は歩いていけるのだと思う」は作者のくせに一番思い入れのあるフレーズだったりします。

個人的にはここまで長い話を書いたのは初めてだったので、伏線を張ったり、人間関係を組みなおしたり、が難しくも楽しかったです!
三期をやるならこんながいい! と本気で考えて書いたので本当に! すごく! 書いてる自分が一番楽しんだのではと思います(笑)。
重ねてになりますが、ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました!
本編はこれで終わりです。ごく短い番外編があるのですがそれはまた今度の機会に!





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