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2010.12.13 (Mon)

※パロ注意※『てのひらのはなし』

お久しぶりです、12月も半ばを過ぎようという時にやっと12月最初の投稿です。
3期妄想SSはいつか本にしたいので書くつもりですが、今回はいちさんのストライクウィッチーズのパロSSから派生SSを書かせていただきました!
先にいちさんのSSを読んでいただくと分かりやすいと思います。
人外設定あり・ファンタジーなので苦手な方は閲覧をお避け下さいますようお願いします。
なお、いちさんはいちさんで他のお話を考えてらっしゃるそうなので設定は同じですが別物とお考えください。ややこしくてすみません。

登場人物:エーリカ、ゲルトルート、ウルスラ、マルセイユ、杉田艦長(笑)

それでは続きからどうぞ!
※長いです(笑)。
拍手返信滞っていて申し訳ないです、次の記事で返信させていただきます…!!
【More・・・】





森に囲まれたとある村でのこと。
少女は、怒っていた。

「なんだよ、ゲルトルート。そんな奴構うなよ」
「そうだよ、村長は仲良くしろっていうけどさ、そいつの家みたことあるのかよ、ケモノがいるんだぞ」
「ケモノくさい、ケモノくさい!」
「うるさい!!!」

わめく子供たちを、聡明そうな顔をした少女が一喝した。
その大声に、子供達がびくり、と動きを止めたのを見計らって、少女……ゲルトルート・バルクホルンは子供達に囲まれてうずくまっていた少女に歩み寄った。
子供同士のけんかとはいえ、弱いものいじめを見過ごすことなど、バルクホルンに
できるはずもなかった。

「立てるか?」

腕を取りながら声をかけ、膝の泥を払ってやると、少女はきょとん、とバルクホルンを見た。

「あなたは?」
「ゲルトルート・バルクホルンだ」
「……」
「お前は、今度村に来たケモノ使いの一族の子供だな」
「エーリカ」
「ん?」
「エーリカ・ハルトマン」
「そうか、エーリカ。村の者がすまなかった」

そう言って、バルクホルンはハルトマンに詫びると、ハルトマンを囲うようにしていた子供達に向き合った。

「お前達! ハルトマンはこの村を守ってくれる大事な大事なケモノ使いの一族だ!それを私たちが虐げるとは何事だ!」

空を震わす勢いでバルクホルンは吼えた。
そして、続ける。

「今後、ハルトマンに手を出してみろ、私が許さないぞ」

そういうと、子供達は黙り込んで、地面に目線を落とした。

「ごめん」
「ごめんなさい、ハルトマン」

口々に言う子供達にハルトマンは笑顔を向けた。

「え? 何々、遊んでたんじゃないの? 遊ぼうよ」

無邪気に笑うハルトマンにバルクホルンは拍子抜けした。

「お前……いや、まぁいい」

バルクホルンは一瞬呆気に取られたが、そのまま、子供達に手を伸ばした。
てっきり怒られると思っていた子供達は身構えたが、バルクホルンは優しくその頭をなでてやったのだった。
怒られずに済んでほっとしたのか、子供達はまた、遊びに戻った。
それをにこにこと見つめているバルクホルンに声をかける者が一人。

「はん、相変わらず綺麗事ばかりだな、バルクホルン」
「……マルセイユ。お前もエーリカをいじめていたのか」
「そんなことするわけないだろ。エーリカ、といったか。あいつ、相当強いぞ。だからあそこからどんな風に巻き返すのか見たかったんだ」
「……そうか」

こいつとはこいつが生まれたときからの付き合いだが、記憶のある限り、いつも勝負
ばかりしている。
しかたのないやつだ、とため息をつくと、自分をじっと見つめる視線に気がついた。
てっきりさっきの子供達と一緒に遊びに行ったと思っていたエーリカが座り込んだまま
じっとバルクホルンを見つめていた。
マルセイユもまさかまだいるとは思っていなかったようで、虚をつかれた顔をしている。

「な、なんだ?」
「ねえ、ゲルトルートさん」
「……トゥルーデでいい。敬語もいらん」
「ねえ、トゥルーデ。トゥルーデも遊ぼうよ」

そう言って、エーリカは遊びの輪へとバルクホルンもマルセイユを子供達の輪へと引き込んだ。
その手の力強さを、バルクホルンは十三歳になった今でも、覚えている。




『てのひらのはなし』



少しだけ成長したエーリカとバルクホルンは村の外へ続く門のところで言い合いをしていた。

「なあ、エーリカ。今日も村の外に出るのか」
「そうだよ、ケモノ使いたるもの、常に修行をしろってとうさまが……」
「ほう、修行を」

そう言って、バルクホルンは目を細め、じぃとエーリカを見つめた。

「……ふ、ふー」

エーリカは吹けもしない口笛を吹き、誤魔化そうとした。

「まぁ、いい。私も付き合おう」
「やったー!」

そんなに遠くまでではなく、村の近くで探検をするのがバルクホルンとエーリカの遊びだった。
たまにマルセイユがそれに同行するが、この日はエーリカとバルクホルンだけだった。
村の外に出ると、大体、バルクホルンは木に腰掛け、本を読む。
それを横目に、エーリカは樹に登ったり、木の棒を振ってみたり、バルクホルンの横で眠ったりする。
たまに組み手のようなものにバルクホルンも付き合うのだが、エーリカはケモノ使いとしての修行をしているだけあって、強かった。
村の中よりも風が通り抜け、木漏れ日が心地よく、あまり遠くに行かないことを条件にバルクホルンはいつもエーリカに同行していた。
この日もバルクホルンは本を読んでいた。
ハルトマンはバルクホルンの横で眠っていたが、何かに気づいた様子で、ゆっくりと起き上がった。

「どうした、エーリカ」

バルクホルンは読んでいた本から目線を上げると、エーリカに尋ねた。

「何か、いる」
「何か? 動物か?」
「いや、この、気配は」

そう言って、エーリカは手ごろな木の枝を手繰り寄せた。
その様子に、バルクホルンも身をこわばらせる。

「……ムシ、か?」
「そうみたい。ほら、羽音が聞こえる」

かさかさかさ、音は段々と近くなり、ついにそいつは姿を現した。
蟷螂の姿をより禍々しくしたような、黒いムシがそこにはいた。

「……めんどうだなぁ」

エーリカは呟き、バルクホルンを背にかばう。

「私が、こいつらの注意を引き付けるから、トゥルーデは村に戻ってとうさま達を呼んで来て」
「エーリカ、そんな」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、いいから」

エーリカはそういい残すと、ムシたちへと突撃した。

「んな、無茶な……」

そういいながら、バルクホルンは村へと走る。
いや、走り出そうとした。

「キシシシシ」

目の前を、後から現れたムシが遮った。
思わず、跳び退ってその攻撃をかわし、着地に失敗して転がった先で拾った木の棒をバルクホルンは構えた。

「エーリカ、どうやら、倒さないと、進めないみたいだ」
「うーわ、めんどくさ」

そういうエーリカには余裕がありそうだ、そう、バルクホルンが思った矢先だった。

「がっ……」

エーリカの声に、バルクホルンはムシが目の前にいるにもかかわらず、声がした方を向いた。
跳び上がって木の棒を振り下ろして攻撃しようとしていたエーリカは空中で叩き落とされたようで、地面に落ちるまでがスローモーションのように、バルクホルンには見えた。

「エーリカ!」

意識を失い、力なく横たわるエーリカにバルクホルン近寄ろうとするが、もう一体のムシが行く手を阻んだ。

「くそ、どけ、どけよ!」

先程まで執拗に攻めてきたはずなのに、今は行く手を阻むだけ。バルクホルンが何もできず見ている前でエーリカの近くにいる方のムシがエーリカを血祭りに上げようとしているのは目に見えていた。

―賢しいことを。

ぎり、とバルクホルンは奥歯をかみしめた。

―させるか!

とにもかくにも、目の前のムシに体当たりを仕掛けるが、その長いカマで逆に吹っ飛ばされた。
どん、と背中に樹の幹が当たった衝撃にバルクホルンは大きくせき込んだ。
頭を打ったのか、ぐらつく視界の中で、エーリカの近くにいたムシがカマを振り上げるのが見えた。

「やめろ……いやだ……やめろぉぉぉぉぉ!!」

精一杯声を張り上げると、頭が真っ白になった。ムシたちが動きを止めた。世界のすべてが静止した。
ムシも、エーリカも、木の葉を揺らす風さえも、止まった世界の中にバルクホルンはいた。

「……?」

何が起こったかわからず、とにかくエーリカを助けにいかねばと立ち上がろうとしたバルクホルンだったが、足が萎えてうまく力が入らずそのまま前のめりに倒れた。
泥を浴び、それでも前へ進もうともがいていると、頭の中に声が聞こえた。

―力が欲しいか、

……と。

「誰だ!」

凛とした声でバルクホルンは声の主を捜そうと首を巡らすが、そこには静止した、少し白んで見える世界が広がるだけ。

―誰でもいいだろう。ただ、おまえに力を与えられるモノだ、とだけ言っておく。

「力を? どういうことだ」

―今、目の前にあるものを破壊する力だ。今のおまえには必要だろう。

「……」

―もう一度聞くぞ。力が欲しいか。

「……ああ、欲しい。ただ、エーリカを守るための力が」

バルクホルンは泥の中を前に進むことを止め、手を突いて何とか体を起こし、背後の樹の幹を見つめた。そこに、声の主がいるかのようにその樹の幹は他の幹と違うように見えた。
声の主は、応える。

―後悔はしないか。お前が今から手にする力は、お前をヒトでなくならせる。それでも、いいのか。

バルクホルンは少しだけ身じろぎした。脳裏にクリスの姿がよぎったが、それも一瞬だった。

「いいさ。エーリカを助けられるなら」

―……わかった。目を閉じて、手を前に出せ。

その言葉に、バルクホルンは眉を寄せた。

「なぁ」

―なんだ。

「どうして力を貸してくれるんだ?」

先ほどからずっと感じていた疑問を口にすると、声の主が困ったのが空気で伝わってきた。

―私はもう……消えゆく命なのだ。私のせいで争いが起こり、誰かが死にゆくのはもう嫌でな。一人、消えゆこうとしていたところにお前たちが現れた。私でも最後に力になれるのかと思うと、嬉しくてな。

言葉の端々に声の主が背負っているものがかいまみえてバルクホルンは口をつぐんだ。人外の生き物であることは確かだが、きっとその力故に虐げられ、あるいは力を欲しがるものが多かったのだろう。
その姿は、エーリカにどこか通じるものがあると思った。
姿を、見たいとも思った。

「……姿を、姿を見せてくれないか」

可の答えは期待せずに言うと、

―それはできない。さぁ、もう時間がないぞ。目をつぶって、手を出して。

やはり、否の答えが返ってきた。

「そうか、わかった」

バルクホルンが手を差し出した先に熱いものが触れ、その熱はバルクホルンを駆け巡った。

「う……あぁ……うぉぁぁぁぁぁ!!!」

声にならない声を上げ、バルクホルンは頭を抱えてその場にうずくまった。
自分の輪郭が感覚が溶けていく、徐々にその姿は……「ケモノ」と化す。

―きっと、この力はお前を苦しめる……すまない、そして……ありがとう。

その声を最後に、その声は途絶えた。二度と、その声は響かず、苦悩の末に安息を得た者が静かに消えていったのだった。



***



『うぉぁぁぁぁぁ!』

―……誰だろ、誰かが苦しんでる。

ハルトマンは暗闇の中にいた。ふわふわとした感覚に、自分はまだ夢の中にいるのだと思った。

―もう少し眠らせてよ。

そう、気怠げに再度暗闇に沈もうとしたときだった。

『……エーリカ』

小さくか細い声に呼ばれ、目を開いた。

―……トゥルーデ?

身を起こして、あたりを見渡すが、バルクホルンらしき影はない。
それでも聞こえる、自分を呼ぶ声に、エーリカは闇雲に探す。
目を開いてもあたりは真っ暗だ。さっきまで自分は森の中にいたはずなのに。まだ、ここは現実世界ではないようだった。

『…助けて、助けてくれ……』

「トゥルーデ……! どこにいるの、あたりが真っ暗でわからないよ!」

声は聞こえるのに発せられた方向がわからない。
でも、どうにかして助けなくちゃ、あのトゥルーデが助けを求めてるんだから、とエーリカが息切れるまで走り続けると光が走る先に見えた。



***



「トゥルーデ!?」

エーリカは自分の声に今度こそ目を覚ますと、すぐに体を起こした。
気を失った原因であるムシからの攻撃で全身がきしんだが、動きを止めることなく、エーリカはバルクホルンを探すために目線を巡らす。

すると。

「おぉぉぉぉん!」

目線を巡らす必要もなく、一頭の白く美しい「ケモノ」がそこには立っていた。
輪郭は炎のように、ゆらめく、そのケモノはムシからの攻撃からエーリカを守るようにしてムシと戦っていた。

「どうして……ケモノが私のことを……? だって、私はまだケモノを与えられていないのに?」

エーリカの一族はケモノ使いだ。しかし、自分のパートナーとなるケモノは十五歳になるまで与えられないことになっていた。エーリカはこの時、十歳。
パートナーが与えられるのはまだまだ先のはずだった。

次々にムシを蹴散らし倒し終わるとケモノは、力尽きたように地に倒れ伏した。
慌ててエーリカが駆け寄ると、ケモノは近づくな、と言うように低く唸った。
それに構わずエーリカは近付くと、ケモノの顔に手を添えた。

「お前のおかげで助かったよ。でも、お前はどこから来たの?」

ケモノは黙ってエーリカを見つめた。

「私の友達を知らないかな、大切な友達なんだ。ゲルトルート・バルクホルンっていってね、トゥルーデって呼んでるんだけど」

その言葉に、ケモノは身じろぎした。

「……どうしたの?」

立ち上がろうともがくケモノの、焦げ茶の瞳が揺れていた。

「……もしかして、お前……」

あり得ないはずの考えがエーリカの頭をよぎった。
その、こげ茶の目は、もしかして。

瞬間。

「ウォォォン!!」

ケモノは吼えると、今度こそエーリカを振り切って走り出した。
村の……方向へ。

「トゥルーデ!!」

その呼びかけはケモノ化した自分がエーリカに認識されてしまったのだとバルクホルンを絶望の淵に落とした。



***



走る、走り続ける自分の体。
人間の体の何倍もあるその体の中で、バルクホルンは苦悩にさいなまされていた。
自分が望んで手にした力だ。なのに、エーリカに知られて、自分はなんてことをしてしまったのかと思った。
かといって、あの時力を望まず、エーリカを助けることを選んでいなかったら、一生後悔しただろう。
力を選んだことに後悔はなかったがエーリカに一瞬浮かんだ恐怖とも哀れみとも取れる表情にもう戻れないのだと、痛感させられた。
だからと言って、逃げてどうするのだと、止まれ、止まれ、止まれってば、と必
死に自分の体を止めようとするけれど、止まらない。

―待って、そっちは村だから。村に行ったら、クリスも、マルセイユも、ウルスラもいるから。

大切な人たちに自分の今の姿を見られたくはなかった。

「トゥルーデ!」

後方から声が聞こえた。
エーリカは追いかけてきてくれているようだった。
声を聞いて、ふっと、体の中にあった衝動がゆるみ、体の自由が利くようになると、バルクホルンはゆっくりと減速し、歩を止めた。ちょうど、まもなく森が切れ、村が見えるところだった。

「……トゥルーデ……なの?」

エーリカは恐る恐る聞いた。
バルクホルンはそっと後ろを振り向くと、足元にエーリカが立っていた。

「ぐるる」

声が出ない。自分だといいたいのか、違うと言いたいのか、自分でもわからなかった。

「トゥルーデ……なんだね」

エーリカはついにバルクホルンの前脚に回り込むと、それをそっと抱きしめた。

「トゥルーデ……」
『エーリカ』

辛うじて声が届いたようだ。エーリカは頷くとバルクホルンを見上げた。

「ごめん、トゥルーデ。私が弱かったから、トゥルーデをそんな姿にしてしまった。ごめん、ごめんね」

聞いたところによると、死ぬ間際のケモノが他の者に力を与えるのはよくあることだそうだ。
例えば妖木だとか、妖刀だとか、魔が宿るとされているものはそれだ。
人に与えた、という例は未だかつてないそうだが、無機物にさえ力を宿すことができるのだから人間に宿すことができない道理はなかった。

バルクホルンは黙ってエーリカの話を聞いていたが、煙のにおいを嗅ぎ取って、未だケモノのままの体を緊張させた。

「トゥルーデ?」
『どこかで、火が燃えているようだ。……まさか』

トゥルーデは勢い良く森を抜けると、燃え盛る村を見つけた。自分たちの村だ。

『……っ!』
「トゥルーデ!!」

エーリカの静止を振り切り、バルクホルンはケモノの姿のまま、村に飛び込んだ。

そこは地獄だった。
火の海が家々を飲み込み、ムシたちが村を蹂躙していた。

『あの時、倒し漏らした奴がいたのか!?』

バルクホルンはすぐさまムシに飛びかかると、噛みつき、村人に襲いかかろうとする火の手から身を挺して守った。

「……大丈夫……!?」

追いついてきたエーリカにバルクホルンは黙って頷いた。

「あれ……とうさま、かあさま……!?」

ムシが集中している一団を見つけ、エーリカは声をあげた。
ケモノ使いである彼女の一族は、この混乱の中、村を守ろうと戦っていたようだった。
しかし、百人規模の村に襲いかかったムシは二十体。その半分はすでにハルトマン一族が蹴散らしていたが、多勢に無勢、敗北は時間の問題だったようだ。
エーリカの声に応えるようにしてバルクホルンは風前の灯火とも言えるハルトマンの父親と母親の元へ駆けた。
そして、圧倒的な力でもってムシたちを蹴倒す。
エーリカが駆け寄って両親の怪我の様子を見ているのを見て、バルクホルンは安
堵すると同時に胸を騒がせた。

先程から、ムシを倒しながら妹・クリスを捜しているのだが、なかなか見つから
ないのだ。

―クリス……! クリスは……どこだ!?

と、そのときだった。
小さな子が、すすり泣く声が聞こえた。

「お姉ちゃん……」

微かだけど、確かに自分を呼ぶ声。

―クリス!!

バルクホルンが声のした方に向かうと、クリスが、いた。
そして、その目の前には……ムシ。

―私の妹に何をする!!

バルクホルンはそのままの勢いで突撃したが、それもまた、ムシの思うつぼだった。

―がはっ……。

バルクホルンの突撃に反応したムシが、突如、自爆したのだ。
バルクホルンは辛うじてクリスを庇うと、そのまま意識を失った。



***



「トゥルーデ……」

エーリカは黙って横たわるバルクホルンを見つめた。
バルクホルンは人の姿を取り戻していた。しかし……。
腹に一撃を食らったバルクホルンはただ、血を流して意識を失っていた。
バルクホルンが身を挺して守ったので、クリスは無傷のまま、しかし、気絶して傍らに倒れていた。
エーリカは必死にバルクホルンの腹の傷の手当をする、エーリカの一族はケモノ使い故、怪我が絶えない。そのため、怪我の治療もまた、お手のもの、のはずだった。しかし。

「トゥルーデ……血が、血が止まらないよ……」

エーリカは涙を流しながら意識のないバルクホルンに声をかける。
徐々に弱くなっていく鼓動に、それでも諦めてなるものかと強く呼びかけようとした、その時だった。

「ねえさま」

エーリカは背後からそう呼びかけられた。
自分のことをねえさま、と呼ぶ人間はこの世に一人しかいない。

「ウルスラ……ウルスラ、トゥルーデが……」
「わかっています」

ウルスラはエーリカの隣に腰を下ろすと、バルクホルンを観察した。

「ねぇさま……バルクホルンさんは今……人間じゃありませんね」

この世界の人間はケモノを見分ける目を持っている。それは見える、わけではないが、なんとなくわかる、のだ。

「そう、私をかばって……ケモノの力を継承しちゃったみたいなんだ」
「そうですか……」

そう言って、ウルスラは静かに手にしていた本を開いた。
何をするのかと様子をうかがったが、理解するより先にウルスラは本を閉じた。

「ねぇさま、バルクホルンさんがケモノになったということなら、一つだけ、バルクホルンさんを助ける方法があります」
「本当!?」

こくん、とウルスラは頷いた。

「……契約、するんです。ねぇさまとバルクホルンさんとで」
「契約……」
「ケモノ使いはケモノと契約をしてケモノを使役します」
「使役……」

エーリカは躊躇った。
使役する側・される側。
そんな関係に私たちはなってしまうのか。
そんなの……いや、でも。……と、エーリカは苦しんでいるバルクホルンと静かに横になっているクリスとを見つめた。
バルクホルンはこのままにしておけば死んでしまうだろう。それを助けられるのは自分だけなんだ。クリスと……もう一度、会わせてあげたい。

「ケモノ使いと契約を結んだケモノはケモノ使いが死ぬまで死ぬことはありません。だから、契約をすることで、バルクホルンさんは確実に助かります」

ウルスラもバルクホルンのことは小さい頃から知っている。助けたくないわけがなかった。

「わかった、契約する」
「……わかりました」

ウルスラは小さくうなずくと、手順を説明した。

エーリカは自らの人差し指にナイフをあてがうと、軽く引き、その血を自らの口に含んだ。
そして、そのまま、バルクホルンの口にその血を流し込む。
バルクホルンは呼吸を奪われ、苦しそうにしていたが、ゆっくりとそれを嚥下すると、苦しさが和らいだかのように眉間に寄せられていたしわが引いた。
傷も、少しずつ治り始め、エーリカは一応、その傷に包帯を巻いた。

「う……ん……エーリ、カ?」

バルクホルンは意識を取り戻すと、エーリカを見上げた。事態が分かっていない様子に、エーリカはなにを言ったらいいかわからず、唇を噛んだ。
その間にウルスラは淡々と今の状況を話す。
バルクホルンはケモノになったこと、契約を結んだこと……努めて冷静に振る舞っていることは明らかで、そのことにエーリカもバルクホルンも心の中で感謝した。
本来であればエーリカなりバルクホルンなりが無茶を責められても仕方ないのだ。
心配するなという方が無理なのだ。でも、自分に与えられた役割はエーリカとバルクホルンにはできないことだ、とウルスラは冷静に振る舞ったのだった。
すべてを聞き終わると、バルクホルンは静かにエーリカを見つめた。

「……そうか、ありがとう、エーリカ」
「……人がいる前では主、と呼んだ方がいいかもしれません」
「ちょっと、ウルスラ……!」
「人はケモノを嫌う。恐れているから。だから、形だけでも主従であると見せた方が相手にも警戒されないはずです」
「そうか。ありがとう、ウルスラ」

バルクホルンはウルスラの心中を推し量った上で感謝と同時に頭をなでた。
まだうまく歩けないバルクホルンの肩をエーリカが支え、家の外に出ると、何人か……村長のスギタとマルセイユ、エーリカの父親がそこには立っていた。

「バルクホルン……」

そういって、マルセイユはエーリカに駆け寄った。

「ハンナ」
「エーリカ。……私の見間違いだろうか……バルクホルンがケモノに見えるんだが」
「……」

エーリカとバルクホルンは真っ直ぐにマルセイユを見た。
すべてを悟ったマルセイユはそうか、と言うと道を譲った。
そしてスギタの前に歩み出る。

「村長。トゥルーデは私のせいでケモノになってしまいました」
「……そんなことが……ありえるのか」

スギタの横に、エーリカの父親が傷をおして立った。

「……ゲルトルート、すまない、娘のために」
「……とんでもない」

バルクホルンは静かに応じた。

「それで、お前たちはどうしたいのだ」

スギタはじっとエーリカとバルクホルンを見つめた。

「私は……トゥルーデを元に戻してあげたい。人間に戻してあげたい」
「えっ」

その言葉にバルクホルンは驚いた。

「だって、トゥルーデ、このまま村を去ろうって思ってたでしょ、クリスにも会わないまま」
「……」
「ケモノだって知られなくないから」
「……」
「だから、戻してあげたい。その方法を教えて、とうさま」
「……」

エーリカの父親は考え込んだ。

「人がケモノになったというケースはかなりレアなんだ。もしも治せるとしたら、伝承にある、アカシ、を探してみてはどうだろうか」
「アカシ?」
「ムシを鎮める力を持ち、そいつがいればどんな願いも叶うとされている」
「アカシ……」
「わかった、とうさま、アカシを捜しに……私とトゥルーデは旅に出るよ」
「……」
「お前たちはまだ十歳と十三歳じゃないか。どうやって旅をするつもりだ」

横からスギタは声をあらげた。

「大丈夫、二人一緒ならなんとかなる」
「しかし……」

言いよどむスギタの背中を軽くエーリカの父親は叩いた。

「わかった」

スギタはそういうと、村人たちの元へと向かった。

「ねえさま」

間を見計らうようにしてウルスラはエーリカに近寄った。

「道中、気をつけて……」

そう言って差し出してきたのは一冊の重い本。
エーリカはそれを受け取ると、ぱら、とページをめくった。

「これ……ケモノ使いの心得?」
「そう。ねえさまは勘と天性の才能とでなんとかしてしまうところがあるけど、これからはそれだけじゃ乗り切れない場面もあるかもって思って」

ウルスラにとってみれば、これは御守りのつもりなのだ。不器用な御守り、だけど、ウルスラの愛の詰まった御守りに感謝しつつ、エーリカはウルスラを抱きしめた。

「バルクホルンさん、姉をよろしくお願いします」
「もちろんだ。私が巻き込んでしまったようなものだ……あるじは私が守る……」
「あるじ、って今は使わなくても良いですよ」

堅物であるウルスラがさらに堅物のバルクホルンを諫めている図は少しおかしくて三人は小さく笑った。

「エーリカ、ちょっといいか」
「なに、ハンナ」

エーリカがマルセイユに呼ばれ、そちらへと向かったのを見て、バルクホルンはウルスラに声をかける。

「なぁ、ウルスラ」
「はい」

バルクホルンは真剣な表情をしてウルスラに向き直った。エーリカはマルセイユと話している。今が好機だった。

「クリスには……私は死んだと伝えてくれないか」
「!? なぜ」
「姉がケモノになったと知っては悲しむだろう。いつ帰るかも知れないではつらい思いをさせるだけだ。ならばいっそ」
「……わかりました」

―そう。クリスの知る姉は今日、死んだのだ。

バルクホルンは口を堅く引き結ぶと、生まれ育った村と、妹に心の中で別れを告げた。



***



「さぁ、準備ができたぞ」

スギタがエーリカとバルクホルンに渡したのは旅に必要なものの数々だった。
軽めの武器に防具、マント、旅費に、旅に必要と思われるものが詰まった鞄。

「ありがとう、村長!」

エーリカはそう言ってそれらを受け取ると、バルクホルンの背中を叩いた。

「行くよ、トゥルーデ」
「あ、あぁ……でも、いいのか。私のことなのに、お前を巻き込んでしまって」
「私が、トゥルーデを巻き込んだんだよ」
「いや、違う」
「いいんだ。私も、村の外に用があるから」
「用?」

そう。最初からこの襲撃はおかしかったのだ。
ムシは、火を嫌う。だから、人の住む村には火がいつも灯されている。
ムシが、火を使い、村を襲うなど……あり得ないことだった。
最初から感じていた小さな違和感がエーリカの中で確信へと変わる。
この襲撃は、誰かに、恐らくは人間によって仕組まれたものだ。
その犯人を……探し出す。

「道すがら、話すよ」

今は語らず、エーリカは村の外に一歩踏み出した。
そして、バルクホルンに手をさしのべる。
バルクホルンは少し躊躇した後にその手を取り、村の外へと引き寄せられるようにして一歩踏み出した。
初めて出会った頃と同じ立ち位置にバルクホルンは気恥ずかしさに鼻の下をこすった。
そして、後ろを振り返ると、スギタとエーリカの父親、ウルスラ、マルセイユが自分たちに向かって手を振っていた。
村人の中で自分がケモノになったと知っているのはあそこにいる者だけだし、秘密にしておくよう、お願いをしたから、ウルスラにクリスは頼んだから……だから、大丈夫だ。


そう思い、前を歩くエーリカにバルクホルンは続いた。


(fin.)


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